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医療費控除とは?仕組みや利用の条件など基本を解説

医療費控除は数ある控除制度のひとつです。

控除とは収入や税金などから「一定額をマイナスできること」です。

シンプルな例ですが、税金が1万円だったとして、そこから「2,000円控除できる」と言われたらどうでしょう。払わなければならない本来の税金が1万円なら、2,000円を引けば8,000円になります。控除を使って8,000円の税金を払った方がお得ではないでしょうか。

また、税金の計算に使う売り上げが500万円で、税金計算には経費を引いた400万円という金額を使うとします。控除制度の中に利用できるものがあったため、60万円控除できることになりました。

400万円と控除を使った340万円、どちらが計算結果である税金の額は小さくなるでしょうか。基本的に340万円を使った方が税金額は小さくなるはずです。控除を使って税金の計算に使う額を減らした方がお得ではないでしょうか。

フリーランス/個人事業主の税金は控除を使うこと節税できます。ただ、冒頭でお話したように控除には数(種類)がありますから、条件に合ったものや、お得になるものを選んで使うのが鉄則です。

今回の記事では、控除の中でも知名度の高い医療費控除を取り上げます。

この記事で理解できること

  • 医療費控除とは
  • 医療費控除の内容
  • 医療費控除の注意点
  • 医療費控除の特例

4つのポイントについて分かりやすく説明しますので、節税の基礎知識として役立ててください。

医療費控除とは

医療費控除とは、医療費を支払った際に使える控除になります。

たとえば、フリーランスAが病気になって入院したとします。退院後もしばらく通院や投薬が必要になり、その年は医療費に多くのお金を払った年になりました。このように、医療費に一定額以上・多くの費用がかかった年に使える可能性があるのが医療費控除です。

想像してみてください。フリーランスAは体調を崩して医療費にたくさんのお金がかかったわけです。医療費に多くのお金がかかったということは、体調を崩して働けなかった可能性もあるということではないでしょうか。フリーランスにしろ、サラリーマンにしろ、働けないとその分だけ収入が減ってしまいます。しかも、医療費として払ってしまえば、手元に残る稼いだ分がその分だけ少なくなってしまうのです。医療費による支出と体調不良による収入低下のダブルパンチですよね。

こんなときに通常通り税金をかけられてしまっては、フリーランス・サラリーマン問わず生活が苦しくなるに決まっています。だからこそ、医療費控除で税金負担を軽減できるようにしているわけです。

医療費がかかって苦しいときに使える控除、それが医療費控除になります。

医療費控除の内容/条件/仕組み

ここからは医療費控除のより具体的な内容や利用条件、仕組みなどについて説明します。

医療費控除の内容

医療費控除は自分や、自分と生計をともにする配偶者や家族の医療費を支出したときに使えます。ただ、医療費の支出は期間で区切られており、その期間内の医療費が一定額以上のときに利用可能です。

医療費の期間は1月1日から12月31日になります。たとえば、1月2日に急に体調を崩して入院したとします。治療に時間がかかり、6月10日まで入退院を繰り返しました。その後も治療を要し、翌年の3月末まで通院など医療費控除に該当する支出が相次いだとします。

医療費控除の計算は年ごとで一区切りです。1月2日から6月10日までの医療費が計算に含まれることは言うまでもありません。翌年3月末まで通院など医療費控除の対象になる支出が相次いだわけですから、年をまたいでいることになります。一区切りは12月31日なので、1年の終わりの日までの医療費は計算に含まれ、翌1月1日からは翌年分の医療費控除の計算に含まれるわけです。

その年の1月1日から12月31日までの医療費で、医療費控除の対象になるかどうかを判断します。

医療費控除の条件

医療費控除は1月1日から12月31日まで支払った医療費すべてが対象になるわけではありません。医療関係の支出でも医療費控除の対象にならないものがある他、一定額以上の支出というルールがあるのです。

医療費控除の対象になる金額

医療費控除の対象になる金額は次の計算式で算出した金額です。最高額が200万円になります。

(実際に支払った医療費の合計額-①の金額)-②の金額

計算式の①には保険で補填される金額が入ります。生命保険や医療保険などの他に出産一時金も含まれます。保険などでフォローしてもらえる金額は医療費控除から除くということです。

計算式の②は10万円または、所得200万円未満の場合はそのうちの5%の金額になります。

医療費控除の対象になる支出

医療費控除の対象になる支出は、不調や怪我の治療費や薬品代です。具体的には以下のような支出が医療費控除の対象になります。

  • 医者や歯科医師に支払った治療代
  • 治療に必要な医薬品の購入代
  • 鍼灸や按摩の施術代金
  • 治療のために必要な道具(松葉杖など)の代金     など

医療費控除の対象になる支出は国税庁のホームページに明記されていますので、医療費控除を使うときは確認しておきましょう。

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1122.htm

医療費控除の対象になる支出は「治療・療養に必要な支出」です。

たとえば、フリーランスAが病気になり病院を受診しました。医師から薬を処方してもらい、眼鏡など治療に必要な道具を購入するよう指導を受けました。

この場合、治療に必要であり医師の指示もありますから、病院の治療代や投薬代、眼鏡代などは医療費控除の対象になる可能性が高いと考えられます。Aはその後、医師から治療の一環として鍼灸に通うこともすすめられました。治療の一貫として医師の指示で鍼灸に通いましたので、この代金分も医療費控除の対象にできる可能性があるわけです。共通点を見てみると「治療のため」です。

では、フリーランスBの場合を見てみましょう。

フリーランスBは健康を保つためドラッグストアでビタミン剤を購入し、体のメンテナンスのために定期的に鍼灸に通っていました。健康診断なども定期的に受けています。フリーランスBの場合はあくまで健康を保つためであり、自身のメンテナンスのためです。具体的な病気や怪我で治療のために支出したわけではありません。Bのような支出は基本的に医療費控除の対象外です。

対象になる医療費と対象外の医療費が細かに定められていますので、迷ったら税務署あるいは税理士に確認することをおすすめします。

医療費控除の仕組み

医療費控除を使う場合は確定申告をしなければいけません。確定申告で「今年これだけ多くの医療費がかかりますので税金の負担を減らす控除を使いたいです」と自分から申し出なければならないのです。

確定申告で医療費控除を使う場合は医療費の領収書が必要になります。病院や薬局の領収書は捨てずに保存しておきましょう。

フリーランスの場合、フリーランスの収入・税金を申告しなければならないため、確定申告は必須になっています。フリーランスの確定申告の際に、一緒に医療費控除の手続きができます。

医療費控除でどのくらい控除されるの?【試算例】

医療費控除を使った場合、「どのくらい税金の負担が軽くなるのだろう」「税金はどのくらい還ってくるものだろう」と疑問に思うのではないでしょうか。医療費控除の利用例として、簡単にフリーランスの所得と医療費額で医療費控除を使ったらどうなるのか試算してみました。

なお、この試算は医療費控除以外の控除など、他の条件については考えていません。純粋に所得と医療費で計算していますので、あくまで参考程度に捉えてください。他の控除も使う場合が多いですから、この通りにはならず実際は個人差が出ることについてご了承ください。

■所得400万円のフリーランスで医療費が20万円だった

フリーランスの年間所得が400万円で病院や治療のための投薬代が20万円でした。このフリーランスは保険に加入していなかったため、入院や通院などに給付金はありません。

他控除を考えずに400万円の所得と20万円の医療費で医療費控除を計算すると、2万円の所得税の還付を受けられ、住民税は1万円の減額で計3万円節税できる計算です。

■所得500万円のフリーランスで医療費が13万円だった

次は年間所得500万円で、医療費が13万円かかったフリーランスについて見てみましょう。このフリーランスも保険に加入していないため、入院給付金などはありません。

他控除などを考えず医療費控除だけで計算すると、年間所得500万円で医療費が13万円の場合は44,000円の所得税の還付を受けられ、住民税が22,000円減額されます。合計で66,000円節税できる計算になります。

■所得400万円のフリーランスで医療費が20万円(医療保険あり)

最初の所得400万円のフリーランスで医療費も同額の20万円、ただし医療保険による補填があるパターンについて試算してみましょう。このケースで医療保険がなければ3万円ほどの節税になっていたわけですが、医療保険である程度補填されるため、その分を計算に含めなければいけません。なので、仮に医療保険の給付金を5万円として計算します。

所得400万円のフリーランスで年間医療費が20万円、医療保険による補填が5万円あった場合の試算は、所得税1万円の還付と住民税5,000円の減額です。医療保険の給付金があるため金額は下がってしまいますが、それでも節税効果は得られるという計算結果になります。

医療費控除を使うときの注意点

医療費控除を使うときは注意したいポイントがふたつあります。中には控除を利用するときでは手遅れの注意点もあるため、「控除を使えるかもしれない」と考えて日常的に注意しておく必要があります。

注意点①:医療費控除の対象は自分だけではない

記事の最初の方でもお話ししましたし、国税庁のホームページにも明記されているのですが、医療費控除の対象は自分だけではありません。配偶者など生計を共にしている家族の医療費も合わせて対象になるため、忘れないよう注意が必要です。

たとえば、フリーランスAは風邪さえひかず、年間を通して病院にお世話になることがありませんでした。1年のうちに治療を要したのは、仕事をしていてうっかり痛めてしまった腕くらいのものです。ほぼ医療費はかかっていないに等しい状態です。医療費控除は支出した医療費に対する控除ですから、医療費の支出自体がなければ医療費控除は使えないという結論になります。

しかし、家族に多くの医療費の支出があれば、A自体は医療費の支出がなくても使える可能性があるのです。自分だけではなく家族や親族の医療費も対象になることを覚えておきましょう。

注意点②:医療費の領収書はしっかり保存しておく

経費に限らずフリーランスは領収書の保管が重要です。医療費控除も医療費の領収書がないと認められない可能性が高いため、医療費の領収書は忘れずに保管してください。

なお、自分で買った薬品などは医療費控除の対象外になる可能性が高いのですが、別の控除の対象支出になる可能性があります。セルフメディケーション税制という控除です。セルフメディケーション税制については次の見出しで説明します。

セルフメディケーション税制

セルフメディケーション税制とは医療費控除の特例的な扱いの制度です。自分の判断で購入した医薬品について控除できる制度になります。

たとえば、フリーランスのAは常日頃からパソコンの使い過ぎで腕と腰の痛みに悩まされていました。怪我というわけではなかったため、自分で痛みを緩和するジェルや湿布薬などをドラッグストアで購入して使っていました。

また、フリーランスAは花粉症だったので、花粉の季節になると花粉症薬を自分で購入して服用していました。他には、常備薬として解熱剤や痛み止め、風邪薬なども購入しています。

こういった自分の判断で購入した医薬品は「控除の対象にならないだろう」とレシートや領収書を捨ててしまうことも珍しくありません。しかし、こういったドラッグストアなどで購入する医薬品代についてはセルフメディケーション税制の対象として節税に使える可能性があるのです。

セルフメディケーション税制については別記事で解説しました。フリーランスが知っておきたい節税方法なので、ぜひ目を通しておいてください。

まとめ|医療費控除を使って節税しよう!

フリーランスとして仕事をしていると、予期せず体調を崩してしまうことがあります。また、フリーランスの中には常日頃から自分や家族が通院や治療をしている人もいるのではないでしょうか。

予期せぬ病気や怪我、定期的な治療などが発生した場合に役立つのが医療費控除です。

医療費控除はフリーランス/個人事業主も使えますので、節税のためにも利用条件や内容はチェックしておきましょう!