フリーランス/個人事業主が知っておきたい控除に 雑損控除 があります。
基礎控除や配偶者控除、ふるさと納税による控除などは使う機会も多く、馴染みのある控除かもしれません。雑損控除は使う場面が限られるため、他の控除より知名度も低く、あまり馴染みのない控除に感じられるのではないでしょうか。
雑損控除はフリーランス/個人事業主の「もしも」の時に役立つ可能性のある控除です。
今回の記事ではフリーランス/個人事業主が「もしも」のためにおさえておきたい雑損控除についてご紹介します。
以上のポイントを順番に説明します。フリーランス/個人事業主が利用できる可能性のある控除制度ですので、ぜひ覚えておいてください!
雑損控除とは?
雑損控除とは「犯罪被害や災害被害で財産に損失を出したときに受けられる控除」です。
たとえば、ある年に自然災害で家財道具一式にダメージを受けてしまったとします。家電からベッド、日用品まですべてダメになってしまいました。
このような場合は「フリーランスとして仕事を頑張るぞ!」ではなく「日常生活に打撃だ」「家財を買い直さなければ」「生活を立て直さなければ」「仕事できる環境を立て直さなければ」という話になると思います。そして何より、自然災害などで損害が出た年まで通常通り税金を請求されては、生活のたて直しや仕事環境のたて直しどころではありません。正直、税金を払うよりなら生活や仕事のたて直しに使わせて欲しいと思うのではないでしょうか。
雑損控除はこのようなケースで使える可能性のある控除です。犯罪や災害により被害が出た場合は「自然災害(犯罪)などで被害が出てしんどい。頼むから税金を安くして欲しい」と願い出る(確定申告をする)ことによって控除を受けられ、その分だけ税金負担が軽くなるわけです。
雑損控除のポイントは「被害(マイナス)」が出ていること
雑損控除の最大のポイントは災害や犯罪で打撃を受けたこと、つまりダメージを受けてマイナスが出たことにより控除を利用できるという点です。
他の控除を考えてみてください。たとえばふるさと納税などは、特に損害を受けていなくても利用できます。基礎控除などもそうです。他の控除などについては「年間の売上(プラス)にかかる税金を軽減すること」つまり節税という印象があるのではないでしょうか。
雑損控除の場合は節税というより、「大変なときだから税金負担を軽くしてもらう」という救済に重点が置かれているところがポイントです。税金負担を軽くするために利用するという点は他控除と同じですが、節税のために積極的に利用するというより、被害を受けて苦しいから少しでも状況を緩和するために利用する控除になります。その点、フリーランス/個人事業主が使う他控除とやや違った印象を受けるのではないでしょうか。
雑損控除の内容/条件/手続き
雑損控除を利用するためには条件があります。雑損控除は犯罪被害や災害被害があったときに使える控除ではあるのですが、すべてのケースで使えるわけではありません。
ただ、使えるケースではフリーランス/個人事業主の税負担を軽減してくれるありがたい制度ですので、「もしも」のときに使えるように基本的な知識はおさえておきましょう。
雑損控除の内容
災害や犯罪で財産にダメージを受けたときに利用できる控除です。犯罪や災害で財産にダメージを受けたときは、以下のいずれか多い金額の所得控除を受けることが可能になっています。
1.(損害金額+災害などに関連する支出金額-保険金などの金額)-(総所得金額など)×10%
2.(災害などに関連する支出の金額-保険金などの金額)-5万円
ふたつの計算式に当てはめ、算出結果が多い方を使えます。
計算を簡単に説明すると、災害や犯罪などで損害を受けた金額と関連の支出を合計して、そこから保険金など損害の穴埋めとして受け取った金額を引く・・・というかたちで算出します。
雑損控除の計算で問題になるのは、計算式に登場する「損害金額」です。
たとえば、災害で家財にダメージを受けたとします。この場合、損害金額をどのように算出したらいいのでしょう。家の中の物ひとつひとつを経年劣化なども考えて金額換算して損害額金額を算出するのは大変な作業です。専門知識も必要になることでしょう。
国税庁では財物に対する「合理的な計算方法」を公開しています。雑損控除の損害金額を計算するときは、物に合わせて合理的な計算方法で算出できるようになっています。ダメージを受けた家財が減価償却資産の場合は、非業務用資産として計算した減価償却費累積額相当額を控除した金額をベースに損害金額を計算することも可能です。
財産によって算出方法が違っているところがやや複雑なので、雑損控除の損害金額を計算するときは税理士や税務署の窓口に教えてもらった方が効率的かもしれません。
雑損控除を受けられる人
雑損控除はフリーランス/個人事業主本人だけでなく、フリーランスと生計を一にしている配偶者や親族(年間所得が48万円以下の場合。令和元年以前は38万円以下)などが財産にダメージを受けたときも使える控除です。
たとえば、夫がフリーランスとして働いている場合、生計を共にしている妻が財産にダメージを受けると雑損控除が使える可能性があるということです。生計を共にしていると、妻が財産に打撃を受けても、夫が財産に打撃を受けても、けっきょく夫婦でたて直しをしなければならないという点は同じだからですね。
雑損控除の利用条件
雑損控除を使うためには財産と損害を与えたもの、それぞれが条件に当てはまっていなければいけません。
雑損控除の対象になる財産
雑損控除の対象になる財産は次のようなものです。国税庁のホームページから引用します。
棚卸資産もしくは事業用固定資産等または「生活に通常必要でない資産」のいずれにも該当しない資産であること。
棚卸資産とは、商売上の在庫などのことです。事業用固定資産とは、事業に使う固定資産のことですね。このような財産は雑損控除の対象外になります。
問題なのは「生活に通常必要ない資産」です。ぎりぎりまで生活を我慢すれば、ある程度の物は生活に通常必要ない資産になってしまう可能性があるため、判断に困る人もいるのではないでしょうか。
雑損控除における生活に通常必要ない資産とは、いわゆる嗜好品や美術品、趣味のものなどです。娯楽のためのものや保養のためのものなども含みます。趣味で集めたものなどは、ダメージを受けても雑損控除の範囲外ということですね。
雑損控除の対象になる災害・犯罪
雑損控除は犯罪や災害で財産にダメージを受けたときの控除ですが、すべての犯罪被害や災害被害が対象というわけではありません。雑損控除の対象になる犯罪や災害は細かく定められています。
対象の犯罪や災害についても国税庁のホームページから引用します。
震災、風水害、冷害、雪害、落雷など自然現象の異変による災害
火災、火薬類の爆発など人為による異常な災害
害虫などの生物による異常な災害
盗難
横領
対象になる犯罪や災害は上記に限られます。上記に記載のない犯罪や災害で財産がダメージを受けても雑損控除は使えないということです。詳しくは事例のところで解説します。
雑損控除を使うための手続き
雑損控除を使うためには確定申告が必要です。医療費控除やふるさと納税など、他の控除の利用でも確定申告が条件になっているため、基本的に「控除を使うときは確定申告」と考えた方が無難です。
税務署は個人の災害や犯罪のダメージ状況など逐一把握していません。そのため、「今年は災害で家財がダメージを受けて苦しいので税金の負担を軽くしてください」と自分からアピールしなければならないのです。手続きの際には災害などに関する支出の領収書といった書類が必要になります。実際に損害や支出を確認し、OKなら雑損控除を使わせてもらえるという流れです。
フリーランス/個人事業主の場合は確定申告が必須なので、仕事の売上の確定申告のときに他控除と一緒に雑損控除の手続きも行います。
雑損控除は使える?YES・NOを事例で解説
雑損控除を使える災害や控除はある程度限られています。
繰り返しになってしまいますが、ここでもう一度、雑損控除の対象になる災害や犯罪について引用します。あらためて対象を確認してください。
震災、風水害、冷害、雪害、落雷など自然現象の異変による災害
火災、火薬類の爆発など人為による異常な災害
害虫などの生物による異常な災害
盗難
横領
ここからは3つの事例をご紹介します。雑損控除の対象になるか考えてみてください。
フリーランス/個人事業主の雑損控除|事例①
近年、日本では厳しい天候や気象が問題になっています。フリーランスAが遠方の地域の台風被害をニュースで見て「異常気象だな」などと思っていると、翌日そのフリーランスの住んでいる地域に大雨が降りました。
フリーランスは自宅を仕事場として使っています。大雨のせいで仕事道具から家財にいたるまで破損や故障、使用不能などが発生しました。生活にも仕事にも大打撃です。
国税庁のホームページには「大雨」や「台風」という文言は記載されていません。大雨や台風で家財に損害を出した場合でも雑損控除は使えるのでしょうか?
フリーランス/個人事業主の雑損控除|事例②
フリーランスが仕事をしていると知らない会社から一本の電話がかかってきました。投資の勧誘です。
資産を増やすことに興味があったフリーランスは勧誘電話の話を聞き、投資をすることに決めました。しかし後日、電話をよこした会社は詐欺会社だと発覚し投資した資金を持ち逃げされたことに気づきました。
この詐欺事件は複数名が被害にあっており、ニュースで大々的に報じられました。詐欺により財産にダメージを受けたフリーランスは雑損控除を利用できるでしょうか?
フリーランス/個人事業主の雑損控除|事例③
ひとりでは仕事が大変になってきたため、フリーランスが従業員を雇い入れました。
面接では真面目そうで好印象だったのですが、実はこの従業員はあまり素行のよくないところがあり、フリーランスは一緒に仕事をしているうちに「失敗したかな」と感じるようになりました。しかし、いきなり辞めさせることもできないため、様子見していました。
そんなある日、フリーランスは件の従業員から脅迫によるゆすりを受けたのです。「金を都合しろ」とのことでした。脅されて怖くなったフリーランスは思わずお金を渡してしまいました。フリーランスが恐喝にあった場合、雑損控除は使えるでしょうか?
フリーランス/個人事業主の雑損控除|事例の答え合わせ
それぞれの事例の答えを発表します。
事例① → 使えます。国税庁の記載には台風や大雨という文言はありませんが、台風や大雨などによる財産への損害についても雑損控除の対象です。
事例② → 使えません。雑損控除の対象になる犯罪に詐欺は含まれていません。
事例③ → 使えません。雑損控除の対象になる犯罪に恐喝は含まれていません。
以上が解答になります。
使えるかどうか判断が難しい場合や、使えそうでも国税庁の文言に含まれていない場合などは、利用の可否について税理士や税務署に問い合わせてみるといいでしょう。
フリーランス/個人事業主が雑損控除を使うときの注意点
フリーランス/個人事業主が雑損控除を使うときに注意したいのは「災害減免法による所得税の軽減免除」の制度です。
災害減免法による所得税の軽減免除とは、年収1,000万円以下の場合に使える可能性のある制度で、災害によって家財や家にダメージを受けたときに所得税の減免を受けられるという内容になっています。災害減免法による所得税の軽減免除制度は雑損控除を受けた場合は利用できません。
雑損控除を利用する際は、災害減免法による所得税の軽減免除制度についても条件や内容、利用の可否などを確認し、どちらを使った方が税金負担の軽減につながるか検討してみましょう。税理士にざっくりと「どちらを使った方がお得ですか?」と尋ねてみる方法もおすすめです。
財産にダメージがあったときは使えるか検討を!
雑損控除について説明しました。
雑損控除はふるさと納税などのように毎年自分の意思で利用を決められるタイプの控除ではありません。災害や犯罪で財産に打撃を受けてはじめて使える控除になっています。計画的に利用できるタイプではなく、突発的な事態で困ったとき、つまり「もしものとき」に税負担を軽減できる控除制度です。
雑損控除は制度の性質上、毎年使う控除ではないかもしれません。しかし、台風や大雨の被害がよくクローズアップされる近年、フリーランスが知っておきたい控除制度のひとつです。
いざというときの備えとして、雑損控除を知っておいて損はありません。